このブログは、2021年に書いたLIVEDOORブログからの引越記事です。一部再編集し掲載しております。
入院などが続いて、長い間更新がすっかり滞りました。(※2021年時点の話)。入院時や暇な時間を武侠ドラマ(どちらかと言えば古装片全般)を見て過ごしましたが、ここ数年で見た物なども含めて、今後感想などを少し書きたいと思います。
今回は「将夜」シーズン1~2の感想です。(2018年、2020年)。かなりのネタバレを含むので、ご覧になっていない方はご注意を! (追記:全3回にわけて感想や解説などを記載したいと思います)。
本作は公開時に中国語字幕で見ていたのでよくわからなかった点もありましたが、最近はAmazonなどでも日本語字幕で公開されるようになり、理解も深まりました。(2024.1月追記:prime無料公開はなくなったようです)。


作品背景
原作は売れっ子の猫腻の作品です。2011年ごろからネットで連作され、高い評価を得てきました。ジャンルは一応「玄幻」ということですが、なんとなくの説明になりますが、東洋哲学的な要素満点のファンタジーという感じでしょうか。
内容的には、仙侠系ほど現実離れはしていない人間の世界の話ですが、世界観や設定はかなり複雑で、ファンタジー色も強いものになっています。既にファンタジーの設定は語り尽くされている感もあり「既視感」が強いところはありますが、オリジナリティ豊かな面もあり、楽しめるドラマでした。
まず、原作の熱狂的なファンからは色々な批判が出るのはよくあることですが、批評サイトの「豆瓣」のスコアは、シーズン1で公開後は「7」前後と「健闘した」という感じでした。ただ、その後7.4までじわじわと評価を上げ、人によっては近年もっとも優れたドラマという人も出るようになりました。私もシーズン1については8点ぐらいをつけたい作品となりました。(シーズン2については残念でしたが)。
シーズン1,2を通して監督したのは、楊陽という女性監督。古装片の経験は(本作品時点では)あまりないようですが、女性らしい細やかで叙情的な作品になったと思います。特に間の取り方や、女性たちの感情表現などは非常にうまく撮られています。原作の著者は男性なので、女性の感情描写などの点では意外と原作以上に良い場面も多い気がしました。
脚本は、シーズン1が徐閏で、ご本人曰く、(近頃はやりの)「ゲームのようなものではなくドラマにしたかった」とのこと。これは成功したのではと思います。全体的に泥臭くて人間味あふれる作品になったと思います。ただ、徐閏も述べていましたが、原作通りだと「検閲」に通らないので、変更は必要だったようです。これも中国ならではの悩みどころでしょうか。シーズン2では脚本家が変わり、質の点で低下した感じがします。
中国ドラマの環境は特殊なものがあり、公開の時期などでも要求されるドラマの方向性がいろいろあるようです。スポンサー次第な所もあるようですね。スポンサーと言えば、シーズン1の評判を下げた一つの要素が広告です。鍋の広告などが露骨に劇中に登場することなどはやはり批判が多かったです。我々日本人では気づかない部分ではありますが、あまりの露骨さになんとなく違和感は覚えた方も多いのではとは思います。
撮影は「襄陽唐城」が完成してからはかなり上質なセットでの撮影ができるようになったと思います。シーズン1は予算も潤沢で、ウイグルなどでの現地長期ロケもあって、これも質感の上昇につながっているでしょう。制作面では、シーズン1では視覚効果(SFX)で、「アバター」のジョン・ブルーノが参加しているだけでもかなり豪華な布陣です。シーズン2では視覚効果担当も変わり、この点でかなり質が落ちていると言われました。
後半は予算も減り、60話のところを40話程度まで圧縮したと言われているので、かなり制約があったものと思います。話数が減って、描ききれなくなったりカットされたものも多かったでしょう。これはやはり残念な点です。
シーズン1の俳優陣
主役寧缺(簡体字:宁缺)を演じた陳飛宇は陳凱歌監督の息子さんで、監督の楊陽が惚れ込んだというキャストです。まだ十代で、演技も未熟(ここは批判が多かった)でしたが、見慣れてしまうと結局はまり役ということになったと思います。ただ、この未熟さを見過ごしてもらえたのは、脇を固める俳優達が豪華だったこともあるでしょう。胡軍、鄭少秋、黎明と懐かしい顔ぶれが続き、童瑶、金士傑、倪大紅と名優が出演しています。颜瑟(金士傑)や衛光明(倪大紅)とのそれぞれの師弟愛はほろっと来るものがありました。こう考えると、終盤には愛着がわいてきた陳飛宇の寧缺ですが、冷静に演技を評価するとやはり演技はまだまだではありました。今後の活躍に期待です。
ヒロインの桑桑を演じた宋伊人はこのとき25,6だったと思うので、原作で12歳で登場する桑桑を演じきったのは凄いと思いました。演技も良かったです。
なんと言っても、莫山山(袁冰妍)と葉紅魚(孟子义)の二人はこのドラマになくてはならない存在なので、配役も成功だったと思います。ちなみに原作者は後書きで「桑桑党」だと言っていますが、私は「山山党」です。(桑桑ごめんなさい)。

シーズン2での俳優陣の大幅交代について
今作は今のところ2部作(実際は原作の最後1/4程度を残しているので3部作にしたかった?)ですが、陳飛宇から主役が王鹤棣に変更になったほか、主要な配役が変更になりました。(追記:続編はもはやないでしょう)。
大作故に長期間俳優を拘束することになるので、契約上も連続してというのは難しいのはよくわかります。とはいえ、主役だけでもそのままに出来なかったものかと思います。(これは陳飛宇の進学後の大学側の問題もあったようなのでどうしようもなかったのでしょう)。
ただ、一番問題なのは、キャラクター設定の問題だと思います。主役の寧缺が王鹤棣になったのはかなり慣れるのに時間がかかりましたが、王鹤棣もいい役者さんです。問題なのは彼の演技力ではなく、キャラクター設定や演出です。顔だけではなく、性格も変わってしまったかのようです。書を書くことが好きで、本を読むことが好きな寧欠はどこへいったのでしょうか。
シーズン1での寧缺は無頼で桑桑にもあたりが強く浮気性というのが初期設定でした。桑桑を演じた宋伊人は、メイキングで寧缺のキャラについて「直男癌」と言っています。私の解釈で「直男癌」とは、ナルシストで男尊女卑っぽい浮気性という感じの理解です。確かにシーズン1の寧缺はそんな感じですね。ただ、後半はこの設定がブレている気がします。もちろん、桑桑の重要性に改めて気づいて変化した部分もあるわけですが、それを踏まえても、やはり違和感があります。繰り返しますが、王鹤棣が悪いわけではないです。
ほかのキャストも設定、特に「雰囲気」が変わってしまっています。シーズン2は、1で貼られた伏線の多くが回収されてゆくことになる非常に重要なシーズンなわけですが、俳優の変更だけではなくキャラ設定が十分連続していないため、違和感を感じることになります。
たとえば、皇后の夏天ですが、彼女と寧缺の関係は非常に微妙なものでした。兄の夏侯が寧缺に殺されたということや、寧缺としては宿敵夏侯の妹であることなどがあります。一方で、愛する夫である唐王は夫子を深く尊敬し、その弟子である寧缺を弟のように大切に扱うわけで、夫が信頼している彼への皇后の感情はより複雑になっています。その後、後半では唐王の死も関係して、夏天は寧缺を信じ、寧缺も彼女のためではないとはいえ、皇后と遺児に尽くします。前半の施詩演じる夏天と、後半練練演じる夏天が別人のように感じるのは、単に演者が変わったからではなく、演出の問題だと思います。原作では、渭城で皇后と遺児に再会した寧缺は、改めてなぜ皇帝がこの人を愛したのかを理解します。たしかにドラマでも、後の李漁との会話で、皇后の味方をしているのではなくて、先帝の遺志を継いでいるのだと言うわけですが、その行動の背景が描き切れていないと思うのです。
もちろん、俳優の選択自体の問題もあります。(これも俳優本人の問題ではないのですが)。葉紅魚や李漁の交代自体はやむを得ないでしょう。しかし、俳優の選択はもう少し考えるべきだったと思います。
シーズン2で葉紅魚を演じた劉珂君は新人(当時学生)で、前作の孟子义とはかなり雰囲気が変わり、批判も多かったように思います。もちろん、先に演じた孟子义のイメージが強すぎた面は割り引く必要があるでしょう。また孟子义の葉紅魚は、強さだけでなく、女性的な面もかなり強調されていたと思うので視聴者受けはよかったのだと思います。しかし、原作の壮絶な雰囲気を考えると、劉珂君の葉紅魚の方が(上では選択の問題と申しましたが)再現性が高いと言えるのかもしれません。
李漁役の倪言は、ベテランの童瑶と比べればまだ新人なので比べるのも酷かなとは思います。ただ倪言はどちらかと言うと「かわいい妹系」というイメージだったので、こちらも人選の問題ではないかと思います。
唐王に関しては、黎明の真面目で一途な雰囲気から、よりフレンドリーな雰囲気に変わったのがかなり違和感がありました。もっとも、黎明については思い出補正(CDも持ってます)も効いて、評価は高くなってしまうのかもしれません。冷静に見ると、台詞まわしなどは決していいわけではないので、むしろ醸し出す雰囲気というか人徳なのでしょう。原作からするとおそらくシーズン2の保剣鋒のほうが適役ではあると思います。
同じく台詞でいうと、書院の三師姐については、雰囲気はとてもよいけれども、台詞まわしがどうもという批評が多かった気がします。ドラマの序盤では声が吹き替えでしたが、前半10話からご本人の声になっているようです。なにより、西陵掌教をぶっ飛ばすシーンがかっこよかったですね!
書院では、やはり大師兄と二師兄が目立っていますが、どちらも個性があって納得の配役だと思います。特に陳震演じる大師兄の雰囲気はなかなか出せないものではと思います。孔子における顔回だなどという批評もありました。ちなみに、二師兄を演じた郭品超(台湾)の声も吹き替えになっていて、鄭希さんが吹き替えています。色々なところで耳にする声ですが、これもまた素敵です。これは郭品超の台湾なまりのせいでしょうか。

そのほかの感想(羅列)
あと、これは私の勝手なお気に入りなのですが、七念と王景略がなんともかわいそうで好きです。どちらもかなりの修行者で強者な筈ですが、常に「やられ役」なのです。滑稽さすらあって、なんとも憎めないのです。
批評の中でなるほどと思ったのは、ドラマ『将夜』は、「あまりに原作に忠実なところが逆に問題だ」という指摘です。もちろん、再現性の高さというのは評価出来る点でもあるのですが、小説とドラマは媒体が違うわけなので、当然表現も変わって来るはずだということです。(まあ、何をしても批判は出るのですが)。
同じ原作者の作品で同時期にドラマ化された『慶余年』は、高い評価を得ましたが、こちらは大規模な改編がありつつも脚本の評価が非常に高いのです。それはかなり大胆な整理をした上で、原作の意味を大切にしつつ「語りなおされている」ゆえなのかもしれません。『将夜』は、大作ゆえに名シーンも多く、「あれもこれも」と考えたくなる気持ちもわかりますが、詰め込みすぎて小説と同じ事をドラマでしようとしてしまったというイメージが強いです。特にシーズン2は、シーズン1より濃い部分であるにも関わらず、40話という短い話数で扱わなければならなくなった結果、まとめきれなくなったという感じでしょう。結局文字を映像化することは「解釈」なわけなので、制作側に求められるのは一つの一貫性のある解釈を提示するということなのだと思います。
最後に、音楽は凄く良かったです。「将夜OST」は全体的に良かったですし、莫山山のテーマである「莫望」や、シーズン2のEDであった「不怨」もお勧めです。
▼以下消えてるかもしれませんが…
まとめ
以上、ドラマ版の「勝手な」感想を色々並べてきました。私としてはかなり「はまった」ドラマとなりました。最近の多くの古装ドラマや仙侠ドラマなどの中では良い意味で異色の作品になったと思います。
次のブログ「将夜」感想(2)にて、話の詳しい設定や要約、原作との比較などを書きたいと思います。宜しければご覧下さい。
以上、長文失礼しました。
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