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中国ドラマ「凡人修仙伝」感想

中国ドラマ

とにかく、「ようやく」という言葉が出たのがこの作品です。2023年の撮影終了から2年でようやくドラマ公開となりました。おそらく検閲が理由でしょうけれども、話数も当初40話と言われたものが30話まで縮小されました。

私はどうも仙侠系の作品はちょっと苦手であまり詳しくないので、感想も詳細に分析しておりませんが、感じたままを以下に記載いたします。以下、個人的な独断と偏見による感想であり、ネタバレが含まれますのでご注意ください。

image from Doban

作品背景

豆辯では終了時点で7.5でした。(豆辯では原作本より評価点は高い)。個人的な感想としては、もっと評価されてよいと感じる出来でした。(豆辯で言うところで8点以上)。もっとも豆辯はいつも辛口なので、実際はかなり評価が高かったと見て良いと思います。

私は仙侠系は苦手意識が強いので、「恐る恐る」見始めましたが、意外に面白く、最後まで楽しめました。

今回の監督は『将夜』『夢華録』などのヒット作で有名な楊陽監督です。女性監督ならではのきめの細かい演技指導や人間描写が特徴です。今作も彼女らしい作品になりました。彼女は男性IP(男性向け作品)を映像化するのが上手だと感じてきましたが、まさに男性IPである今回の『凡人修仙伝』も、全体をバランス良く仕上げたと思います。

本作の特徴は、仙侠系にもかかわらず屋外ロケでの実写が非常に多く使われていることです。制作チームは浙江、貴州、新疆ウイグル自治区を半年ほどかけて撮影したとのこと。

新疆の「天池」

詳しい感想はまた後ほど。

原作

凡人修仙传: 第一部 (Chinese Edition)
Traditional e-books
こちらが忘語の原作(Kindle版)。

原作は忘語(丁凌滔)の同名小説。2008年からの連載でジャンルは仙侠です。もうかなり前の作品ですから一定のファン層もあり、ネット小説では「古典的」な作品とも言えます。(さらに初期には蕭鼎の名作『誅仙』が2003年頃から)。

普通の青年が神仙になるという仙侠系の話で、話の素材としては、あまり珍しいものはありません。よく言えば、このジャンルの要素や「お約束」を十分網羅した作品と言えます。「凡人」とあるように、資質も容姿も極めて凡庸な少年が主人公です。

武侠・玄幻・仙侠の違い

他にもジャンル分けはいろいろあるようですが、私の勝手なイメージではこんな感じです。

  • 武侠:基本的に「低武」で自然界の物理法則内ギリギリの表現が一般的。軽功などは実際にはあり得ないわけだが、あり得そうに思わせる。(基本的には飛行もしない)。岩を砕き軍勢を弾き飛ばせても、山がなくなったりはしない。意味的には「狭」の精神や武術の様式を重んじる。金庸や古龍、梁羽生などは武侠小説。多くは恋愛要素がある。
  • 玄幻:東方玄幻とも言い、比較的「高武」の作品が多い。香港の武侠小説家黄易(金庸などより後の世代)の作品が最初とも。1 武侠ほどではないけれども、接近戦や武芸武術の具体的な戦闘もある。本来は、その言葉の通り中国思想や道教思想などを基本にしたファンタジーのことを指した。かなり広い意味もあり、東方風ファンタジーとも言える。欧米のファンタジーと武侠の融合であり、自由な作品が多い。
  • 仙侠:完全に「高武」であり、神話やファンタジー性が強い。接近戦は少なく、基本的に術式や「法具?・武具」で戦う。神の世界の話、あるいは、神仙になる話。実際にはこのジャンルはかなり古く、『山海経』『捜神記』『聊斎志異』等も源流がある。ただ「侠」の字がついている点では、これら古いファンタジーとは異なる。

以前ドラマ化の話を聞いた頃に原作を読み始めたのですが、今回のドラマで言うと3話ぐらいで脱落した覚えがあります。なので、今回は原作についてはほとんどわからない状態です。不明な部分はネットなどで調べておりますが、紙媒体での2巻目以降は読んでおりませんことをお断りしておきます。

原作の最初の部分について少し記憶を辿りますと、もう少し紆余曲折があったと思います。主人公はスタート時たしか10歳になるかならないかぐらいで、入門すると手当がもらえて家族の助けになるという動機で入門志願するという話でした。その後、なんとか補欠で合格しますが、たまたま門主の客人(恩人)として居留している墨居仁に「気に入られて」その弟子になります。この辺がドラマではかなり短く省略されているのは残念です。

原作の師匠墨居仁はかなり邪悪です。また歴師兄や劉師兄のキャラはかなり違ったイメージです。(記憶がちょっと不鮮明)。改編についてはまた後ほど

冒頭でも述べましたが、この原作はネット小説が元になっており、かなり前から広く読まれてファンも多い作品です。ただ、その質については議論があります。ネット小説草創期(後期)において果たした役割は大きいと思いますが、確かに課題は多い作品ではあるようです。(原作は既にのべたように読破できていないので、個人的評価は保留いたします)。

それでも、この時代のネット小説に多くを望むことは酷ではあります。今回のドラマの評判が総じて良いのは、やはり原作をさらに「改良」されていると判断する人が多いからかもしれません。(もちろん、原作やアニメ愛好者からの批判はある)。

ちなみに、修行にはレベルがあり、簡単にまとめると以下の通り。(さらに上の境地があるようですが)。

修行のレベル一覧
  • 煉氣期(何層かある) < ドラマ最後はここに戻った。
  • 築基期(前・中・後) < シーズン1で主人公が達したレベル。(南宮婉に奪われたが)。
  • 結丹期(前・中・後)
  • 元嬰期(前・中・後)

良かった点

安定の俳優陣

今回、主演クラスは新しい俳優さんが多かったですが、主要キャストについては、楊陽監督おなじみの俳優が多く参加しています。以前の監督作品『将夜』(2018、2020年)で比較しますと、重なっている俳優は以下の通りです。金士傑、胡宇軒、尹鑄勝、陳震、李聖佳、宿宇傑、劉珂君、宗峰岩、李明、廖語辰、羅光旭、杜奕衡、榮梓希、曹明華、曹讚、韓瀟雨、馬侖、李佳蔚、孫渤洋、劉秀、張博豪、施慶虎・・・等々。他には『夢華録』で参加した俳優も多いです。このような(橋田壽賀子的な?)「チーム感」は、ちょっとうれしく、安心感もあります。

屋外ロケを多用した美しい画

新疆ウイグル自治区 サリム湖

前述の通り、屋外ロケを多用した楊陽監督作品らしい美しい画のドラマでした。(仙侠系が苦手の私にとっても「見やすい」ドラマになったと思います)。全体的には「玄幻」に近い雰囲気だったと思います。(今後続編があれば、「人間界」から遠ざかるのかもしれませんが)。

また、相変わらず雨のシーンが多いのも情緒があってよかったです。

ちなみに、仙侠系なので、みなさん空を飛びますが、その中でも乗り物にのって飛ぶというシーンが多くあります。(自分で飛べるなら「乗ったり」「歩いたり」しなくていいのではという突っ込みは置いておいて・・)。

主人公が乗っている乗り物「神風舟」は、歴史的にもよく考えられたデザインでした。実際、アイキャッチ画像にあるように、神仙は筏(槎)のようなもので移動する描写もよく見られます。(絵の題は「浮槎」で清代の作品)。こういった細かい部分が本作ではよく作り込まれていたと思います。

演技の表現がすばらしい

前述の通り、信頼している俳優を使っているということでもあるのでしょうけれども、監督の演出の細かさもあって今作も非常に表現力豊かな演技が多かったです。監督の演出方法をオフショットなどで見ていると、実際にやって見せて伝えるというような方法が多用されています。また、毎度アングルやカットにもこだわりを感じます。

主役の楊洋については、当初演技力を疑問視する人が多かったように思いますが、とても良かったと思います。ただ、ちょっとイケメン過ぎるのが難点ではあります。原作ではあくまで「凡庸」「普通」が強調されていて、容姿もそこに含まれています。なので、最初からイケメンなのが残念。(もちろん視聴数など成績を上げるには主役の容姿は重要なのでしょうけれども)。

男性主人公にはなんとなく楊陽監督の理想像やこだわりが表れている感じがします。(それゆえか、男性キャラの演出には若干クセがある)。

楊陽監督作品でもっとも優れているのは、女性の感情表現です。不幸な女性、可憐な女性を描くのが本当にうまい監督です。『将夜』の時もそうでしたが、男性IPを万人向けにアレンジするのがとてもうまいのです。今回の原作は、明らかに男性向けかつ、男女のロマンスがテーマでもありません。あくまで修行とランクアップがテーマです。楊陽監督は登場する女性たちのキャラをいくらか改編して、彼女たちを輝かせたと言えます。(これも論争にはなっていますが)。つまり、そこに登場する女性を「万人向け」に輝かせるのがうまいのです。

今回のドラマの中心は、勝手な感想で言えば、主人公と墨彩環との関係性なのかなと思います。一人は神仙を目指し、もう一人はまさに「凡人」ー普通の人間です。年齢を経て行く自分と、年を取らない韓立。そこにおおきな悲劇があり、方向性の違いがあります。この設定によって、悲恋がますます切なくなるという気がしました。

それゆえにも、今回もっとも評判がよかったのがその墨彩環を演じた趙晴の演技です。楊陽監督による演出もかなり影響しているとは思いますが、切ない運命を演じきりました。ヒロインは複数いますが、おそらく一番輝いていたのではと感じます。

このように、今作は神仙の世界の話(修行)中心ではなく、「人間ドラマ」に重きを置いた作品となっています。例えば冒頭でも書きましたが、最初に入門する墨師父の描き方は原作とは大きく違います。墨居仁は確かに邪悪で狡猾な人物ですが、ドラマでは彼の人間的な部分もうまく描いています。これは良い改編だった気がします。それにしても、金士傑(台湾)の演技は素晴らしいと思います。私は見ていて、同じく金士傑が演じた『将夜』の主人公寧缼の師匠顔瑟と被ってしまいました。同じ「師匠」であり、去ってゆくという点でも似ています。もちろん、弟子を最後まで愛した師匠と、利用した師匠なので、キャラはまったく逆ではあるわけですが。

また今回の脚本を監督した王裕仁は『将夜』『夢華録』などでも楊陽監督とタッグを組んで来た人です。元々『凡人修仙伝』のアニメシリーズを手がけてきたプロデューサーだけに、この物語に精通していたということも作品の質に寄与していると思います。

アクションも素晴らしかった

仙侠系はアクションが毎度「飛ぶだけ」になりがちですが、本作はさすが楊陽監督らしい、スピード感のあるものでした。最近は武侠系・仙侠系どちらも、ワイヤーアクションの質がひどいものが多くなっています。(もちろん、俳優の訓練期間が必要だったり、危険の問題などが枷になている場合も多い)。同じ飛ぶにしても、明らかにぶら下がっているような(エレベーターと揶揄される)ドラマも多いので、今作はこの点かなりこだわった作りでした。

これは『将夜』での経験が十二分に発揮されていると感じます。(符の描写などはほとんど同じなので、二番煎じという批判もありますが)。先頃不評のスローモーションの多用ではなく、CGとアクションをうまく融合させた激しいアクションはとても良かったです。

仙侠系ドラマは多くをCGに頼らざるを得ないわけですが、その質も高いものでした。尤も、仙侠系はもともと「奇想天外」な話なので、そういうものだという割り切りがないと、CGが豪華でも好みは分かれるところではあります。私は長年この点が壁になっていて、「モンスター」が出てくると萎えてしまうことも多かったのですが、本作はかなり楽しめました。

飛行中のアクションで「スターウォーズ」を思い出したのは、歳のせいでしょうか・・。

南宮婉について

今回、墨彩環の影に隠れてしまったかのような感もありますが、南宮婉のキャラ設定や改編もよかったと思います。この改編と演じた金晨については、かなり激しい議論がされていますが、私は金晨のキャスティングはぴったりだったと思うのです。(これで孟子義ならもう完全に『将夜』になってしまいますが、それも見てみたかった気もします)。原作を読み切っていないので、改めてざっと見てみた感想としては、原作の南宮婉はもっと冷たい修行者で「女神」のような雰囲気です。今回楊陽監督は、かなり改編を加えて、より人間味のあるキャラにしたと感じます。一見冷たく近寄りがたい雰囲気を持ちつつも、どこか憎めないキュートな感じを持たせたのは良かったと思うのです。(若干コミカル過ぎる部分もあったと思いますが)。

ただ、全体的に彼女の存在が(趙晴の名演技以前の問題で)薄くなってしまっているのが残念です。これは話数の減少によるものなのか、意図的なものなのかは不明ですが、メインヒロインなのですからもう少し丁寧に描いてほしかったとは思います。

ちなみに、21話の嫉妬に怒り狂うシーンは一番のお気に入りです・・。(岩投げるところ)。

残念だった点

今回はさほど不満なことはないのですが、気になったことをいくつか

とにかく端折った

やはり全体を大幅にカットしただけあって、かなり展開が早く、ナレーションやテロップ、音楽で飛ばした部分が顕著にわかる構成でした。しっかりと撮影はしてあるのに泣く泣く飛ばしたのだろうと思える構成もたくさんありました。なかなか難しいものです・・・。

私は、やはり最初の1巻目、つまり主人公が一番「凡人」だった時期が重要だと思うので、その部分がかなり飛ばされてしまったのが残念ではあります。端折った結果、ハイスピードでランクアップしているように見えてしまい、もはや「凡人」ではなくなってしまった感じがします。

もちろん、この話数では無理な話でしょうから、「よく編集頑張った!」というべきなのかもしれませんが。

ちょっと洞窟が・・

全体的に自然も雄大で見応えのある映像でしたが、主要門派の本拠地はいつも自然の中か洞窟でした。これはなんとも違和感がありました。天上界ならいざ知らず、食事もするし寝るわけです。彼らはどこで生活しているのだろうか?などと見ていてちょっと疑問でした。修行者だからこれでいいのかもしれませんが、洞窟のセットは非常にチャチでした。どうしても洞窟でということなら、実際の天然の洞窟内での撮影を望みたいところでした。(役者のスケジュールなどからも無理はあるのでしょうけれども)。

衣装も・・

あと、仙侠系ではどうしてもやむを得ないのかもしれませんが、私は衣装をもう少し考えてほしいと思うのです。各門派がある以上、ユニフォームのような目に見える差異が必要なのはわかります。ただ、もう少し普通の衣装でもいいのにと思います。同じ仙侠系で映画化された『誅仙』(邦題:ジェイド・ダイナスティ)のような、色彩美がありつつも質素な衣装ならいいのにと勝手に思った次第です。

今回の作品のように美しい自然を背景にすればするほど、より(作り物という)違和感が出てしまうので、ちょっと気になった点でした。

音楽が残念

これは他の楊陽監督作品と比べるとかなりチープで、とくに主題歌、挿入歌などの歌系はひどかったです。(あくまで私の勝手な感想です)。もっとも、これは中国国内ではまったく逆で、むしろ「歌もの」のOSTが非常にヒットしており、歌手たちの側でも主要な収入源にすらなりつつあると言います。なので、これはあくまで日本人の私が感じる感覚なのかもしれません。(劇中歌の多用などは中国ドラマならではのお約束ですが)。

これは、昨今のドラマの流れでもあり、批判する人も多いですが、本作が原作以上にアニメで有名ということも考えると、音楽についても若い世代へのアプローチが必要だったのかもしれません。

『将夜』の時は、歌曲も良かったですが、作曲家阿鯤によるオリジナルサウンドトラックが非常に印象的でした。イギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団も参加して、全60曲が選定されました。2 予算などの事情はあると思いますが、今作ももう少し力を入れてほしかったと思います。(『将夜』が例外的ではありますが)。

▼これは『将夜』OST7曲目の「メインテーマ『簫変奏』」。これがお気に入りです。(動画が消えるかもしれませんが、OST全曲の動画)。

まとめ

いずれにしても、素晴らしいドラマでした。話数削減が大きく影響して「名作」とまでは言えない完成度ではありましたが、人間模様や自然との融合を描いて十分成功した作品だと思います。仙侠というジャンルはどうしても映像化には無理な部分もあって、「そういうものだ」と思って見る必要はあります。特に、昨今の仙侠系ドラマはゲーム的要素がより強くなっており、アニメの影響も強く受けているので、好みもわかれるジャンルではあります。

今回は、楊陽監督作品ということもあって、楽しみにしておりましたが、期待通りの作品でした。繰り返しになりますが、話数の削減が悔やまれます。まあこれは、検閲や予算など中国ドラマの制作環境の宿命でもあるのでしょう。

一応シーズン1という扱いでしたので、次作にも期待したいと思います。(いつのことになるのでしょうか)。

以上、長文お読みくださり感謝いたします。


  1. 百度百科「玄幻小説」の項より。 ↩︎
  2. 2025年8月確認。『将夜』参加時の阿鯤のインタビュー記事より。https://k.sina.com.cn/article_5724000880_1552d527001900e7vu.html ↩︎