PR

中国ドラマ「柳舟記」感想

中国ドラマ

現在他ブログとの整理統合作業を行っております。この記事は2025年1月に別ブログで書いた記事の引越版です。一部加筆修正しております。

基本的に恋愛中心の古装ドラマは興味がないのですが、今作はなかなか面白かったです。見終わって(2024年)からちょっと時間が経ってしまいましたが、思い出しつつレビューしてみます。(2025年11月追記:邦題「柳舟恋記~皇子とかりそめの花嫁」)。アイキャッチ画像は、清の惲壽平による「垂柳漁舟」です。(1687年の作品)。ドラマにちなんで柳と舟の山水を選んでみました。

ドラマについて

中国での評価ですが、一時豆辯で8点に届いたのですが、最終的に7.7(2024.11)に落ち着きました。比較的高評価ということではありますが、いわゆる「S+クラス」の最上級ドラマにしては、ヒットしきれなかった感じはあります。でも、個人的にはとても良い作品だったと思います。私の勝手なイメージとしては、全体が「夫婦もの」(虚偽がどうかは別にして)なので、普通の「恋愛もの」とはちょっとちがった安心感のようなものがあったのかなと思います。もちろん、(偽りの)幸せがくずれて行くところから始まるつらさや、すれ違いもあるのですが、考えて見ると、最初から最後まで(離れても)基本的に形としては「夫婦」という、ある意味不思議な話です。

S+クラスということで、予算もかなりかけられており、浙江省の景勝地である雁蕩山でのロケや、撮影セットの作り込みも素晴らしかったと思います。

本作品は、2022~3年頃の報道では楊幂の主演作というアナウンスだったと思います。その後、彼女が実質「蹴って」(ファンのブーイングも含めて)、今の制作や俳優陣になったということのようです。結果的に、張晚意と王楚然という組み合わせは大成功だった思います。張晚意はあまりよく存じ上げないのですが、王楚然は『将軍在上』から始まって、つい最近は『慶余年2』などでも見かけるようになり、かなり知名度が上がっていると思います。劉亦菲ともよく比べられる彼女ですが、これからさらに活躍するのではないかと思います。

あらすじと原作について

原作は狂上加狂の『娇藏』。比較的最近のウェブ小説です。あまりよく原作者についてはわかりませんでした。「娇藏」という言葉は、「金屋蔵嬌」などとも言うので、お妾さんを(立派な屋敷に)囲うことから来ているのかなと思います。日本でも「蔵嬌」という言い方がありますので。

以下かなりの程度のネタバレが含まれますのでご注意ください。また、毎度のことですが、私の中国語力の不足によって誤った解釈をしている場合もありますので、悪しからず。

ドラマ版のあらすじ

資産家の崔九との婚姻から逃げた柳眠棠は、仰山の山賊の首領となり、実は皇室の嫡孫である子瑜と協力して綏王や朝廷と戦う。淮陽王崔行舟は仰山の鎮圧を目指していたが、その過程で仰山の頭目「陸文」の愛妾柳眠棠を救う。柳眠棠は重傷を負って記憶喪失状態で、崔行舟を夫の崔九と思い込む。(実際に崔行舟と同姓でしかも排行が9番目なので崔九とも呼ばれていた偶然)。

有能で冷酷な崔行舟は、その柳眠棠を餌にして「陸文」をおびき寄せる計略を巡らす。しかし、二人の間になんとなく絆が生まれて行き、崔行舟はいつか彼女を本当に愛するようになる。

しかし時と共に柳眠棠は記憶を取り戻し、崔行舟は柳眠棠こそ追っていた「陸文」であることを知る。「陸文」だと思っていた子瑜は実は皇胤(劉淯)であり、暗殺された父(皇太子)の無念を晴らし、帝位に就く。柳眠棠は崔行舟に騙されていたことに傷つき彼の元を去る。しかし、やはり二人の絆は断ち切れず・・・。という話。

ドラマ版はあくまで綏王の野望をどのように打ち砕くかの話になっています。

原作との違い

もちろんかなりの改編が為されていますが、主要なものは以下の通り。

原作の外祖父の名前は喬武ではなく陸武

つまり、喬家ではない。改編の理由は不明。このため、わざわざなぜ柳眠棠が自分を「陸文」と名乗ったのかを説明しなければならなくなった。原作の外祖父は、ドラマ以上に、山賊を嫌っている。(仰山に協力した息子にも厳しい)

二人の間には中盤で子供が生まれる

妊娠していることがある意味「子は鎹」となった。

綏王は中盤で退場

原作ではこれをクライマックスに持ってきたが、原作ではまだ中盤。

原作の太皇太后は悪役

息子綏王を帝位に就けるために画策する。

柳眠棠は二回記憶喪失になる

1回目崔行舟の仰山討伐の際に負傷し記憶喪失になる。その結果偽装(偽物)夫婦が誕生する。その後記憶が戻り悶着が起こるが本当の夫婦になる。

2回目子瑜と崔行舟は協力して綏王を倒し、子瑜は帝位に就くが、崔行舟は危険な倭寇討伐へ追いやられる。随行した柳眠棠が戦乱の中再び記憶喪失になり、今度は崔行舟を忘れてしまって敵と思い込む。その際倭寇の指導者「鷹司寺」の妻と思い込まされる。(このあたりはドラマでは全てカットされている)。しかし、この際は早めに記憶を取り戻す。

全ての黒幕は崔行舟の兄で車椅子に乗った崔行迪(五兄)

彼は庶子であり、嫡子の崔行舟を怨んでいた。崔行迪に協力していた石義寛は口封じで殺さるが、結局崔行迪の野望は粉砕される。(ドラマでは綏王だけが黒幕になっている)。

子瑜の崩御の後、幼帝が即位し崔行舟は摂政王となる

二度目に記憶を取り戻した柳眠棠は崔行舟と地元へ戻るが、その後皇帝(子瑜)も崩御する。石太后の下、幼い皇帝を補佐するために崔行舟は摂政王となる。その後、皇帝の親政をもって隠棲。

ざっと読んでみた限りではこんな感じの違いがありました。(中国語力の問題で誤解がありましたらもうしわけありません)。こう考えると、ドラマはこれらの要素をよりすっきりと整理した感じがします。特に二度目の記憶喪失をカットしたのはむしろ良かったと感じます。

ドラマ版は大衆に受け入れやすい「王道」な改編であり、検閲対策もあって原作の「濃さ」はかなり薄くなっています。そこにはジェンダーなど封建時代設定のドラマでは批判も多い部分を現代人に受け入れやすくしているということもあります。これが「きれいすぎる」と批判する人もいます。(私もそう思います)。

感想

主人公は柳眠棠と崔行舟ではありますが、さらに二組のカップル(候爺、皇帝)がおり、群像劇という雰囲気もある作品でした。これらのキャラクターがとても生き生きと魅力的に描かれました。

張晚意の演技にはいろいろ意見はでましたけれども、私はかなりよかったと感じました。若干クセがあるとは思いますが、はまり役でした。なにより、王楚然の演技や雰囲気が良かったです。

本作で、個人的に一番魅力的なキャラだったのは石皇后です。演じた袁雨萱の演技も相変わらず素晴らしい。派手さはないのですが、このドラマを支える重要なキャラでした。

石皇后が、柳眠棠を引き留めようとする皇帝を諫めるシーンが一番印象に残っています。

人愿与鸟知音、不过是凤栖梧桐、鹏飞天际、 鸟儿总有它们自己的归宿、如若真是知音、不如将它们放归吧!

【適当な意訳】 人は鳥と知音(理解者)になりたいと願います。でも、「鳳凰は梧桐に住み、おおとりは天際を飛ぶ」(帝王とは住む世界が違う)のです。鳥には彼らの帰る場所があります。もし本当の理解者であるなら、帰るべきところに返してあげましょう。

まさに「国母」の風格でした。

さらに、見終わって気づくのは、アクションは殆ど無かったということです。主人公の二人は王である将軍と江湖の女傑にも関わらずです。これは不満と言えば不満な要素ですけれども、アクションよりも話に重きを置いたということなのでしょう。

にもかかわらず・・最終章で不意に二人が武功を披露するのがまたいいと思います。柳眠棠は常人離れした軽功を披露しており、崔行舟よりも強いのでしょう。もちろん、この話ではそれぞれの武功を隠さなければならない設定が大きいのもありますが。

全体は家族や政治の話であり、アクションは背景に引いている。これもなかなかいいのではと思いました。

中国ドラマ 柳舟记 Are You the One 高AI翻訳字幕 ブルーレイ 全話 日本語字幕 トールケース付 [並行輸入品]

不満な点

もちろん不満な点もいくつかあります。

吹き替え(配音)

今回は、王楚然と子瑜役の常華森は中国語では吹き替えになっています。(段芸璇と銭文青の吹き替え)。これは毎度思うのですが、残念です。王楚然が吹き替えになった理由は確かなことはわかりませんが、柳眠棠役の「甘い雰囲気」を出すためだったような気がします。王楚然は、ちょっと「地声」があっさりしすぎている感じはするので・・。常華森については、『一念関山』でも銭文青の吹き替えだったので、もう定番化しつつあります。いずれにしても、やはり「声」や「台詞」も演技の内だと思うので、俳優さんオリジナルの声で聞きたかったところです。

キャラ設定のブレ。

特に崔行舟は、もともと冷静で表情を表さない人間だったわけですが変わって行きます。もちろん、その変化を楽しむドラマなのはわかるのですが、変わり方が激しすぎます。三枚目で愚かなキャラに変わってしまっています。

本来は趙泉が道化役だったはずですが、主役もその方向に引きずられると、ちょっと「しまり」がなくなってしまいます。

柳眠棠の場合は、記憶喪失なので多少の変化は当然ではあります。ただ、記憶喪失で性格まで大きく変わるのはちょっと不自然な気がしました。記憶がない時期の柳眠棠は「かわいらしいしっかり者」という方向の描写がかなり過剰に思えます。もちろん、ドラマとしてはその方が受けが良いのはよくわかるのです。しかし、記憶がなくても「地」の部分の「江湖の女傑」としての性質は残るはずではと、若干違和感がありました。

話の展開が不自然だったり急過ぎる

せっかく40話もあるのに、話の展開が不自然だったり、急だったりということが多くありました。例えば、子瑜が皇帝になるシーンはあまりに唐突で、「ナレ死」ならぬ「ナレ即位」でした。本来、皇位を取り戻すところこそ重要なドラマなはずですが・・。さらに、その後の子瑜は元から皇帝だったかのような振る舞いをします。そのあたりの描写が雑というか矛盾している気がしました。

ラストの場面設定には無理があったと思います。綏王の野望が潰える場面ですが、綏王の兵がもはやいないのは良いとして、親衛兵はいったいどこにいるのでしょうか。母太后に見捨てられた綏王に迫るのは皇帝子瑜と崔行舟のみ。もちろん二人とも武芸ができるからいいのかもしれませんが、皇帝を守る者が誰もいないのが違和感ありでした。母太后と朝臣たちが顔を出すのですが、直ぐに帰ってしまうのもなんだかおかしな感じでした。場面を劇的にしたかったのでしょうけれども、もう少し自然な描写にしてほしかったです。

結局一番女性達が強かったという話ではありますが、架空とはいえ封建時代設定のドラマとしては若干疑問符は付きました。賀珍の行動などは、とても封建時代にはありえないもので、そもそも相手が王侯であろうが遠慮無しというのも現代的に過ぎる気はしました。このあたりは、古装ドラマが抱える矛盾ではあります。(中国国内の視聴者のニーズもあるのでしょう)。

まとめ

40話あった割にちょっと作りは雑になってしまいましたが、それでも秀作と言えるレベルだったと思います。最後まで楽しく視聴できました。おすすめの一作です。

長文お読みいただきありがとうございました。