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書評「徳川将軍と天皇」(山本博文著) 

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この記事は2011年に他ブログで書いた記事の引越記事です。最後に転載にあたっての追記があります。

徳川将軍と天皇 (中公文庫 や 44-4)
中央公論新社
戦国の世に終止符を打ち、長期にわたる安定政権を樹立した徳川幕府。天皇が与える官職である将軍職とは、武家政権の確立にいかなる役割を果たしていたのか。朝廷と、徳川本宗家をとりまく御三家・家門・連枝など徳川一門との関係から、草創期の徳川政権を描く。徳川家一門の構造と江戸時代の朝幕関係を深く知る好著。(Amazonより)

今年の大河ドラマ(追記:2011年「江~姫たちの戦国」)を見ていて、この時代の資料は何かなかったかなと家の書棚を見ていましたら、この「徳川将軍と天皇」が目に入りました。もう10年以上前の本ですが、とても面白く読んだ記憶がよみがえりました。

戦国時代が終わって(安土桃山があるとはいえ)、徳川家が世襲の征夷大将軍位をどのように継承していったのかがよくわかる本です。この本の視点は、本の題の通り、徳川幕府と天皇との関係に置かれています。どのように将軍宣下がなされたのか。その詳しい下準備なども説明されています。代を経るごとに朝廷と幕府の関係も変化していきますし、公家も幕府の家臣のような身の振り方を始めるあたりが興味深かったです。

後半は、徳川一門の形成過程を詳しく描いています。御三家の格式や、通常の大名との違いなども書かれています。また、徳川家の基礎を据える途上での様々な一門の問題なども詳しく説明されています。

著者の山本博文氏は、面白い本を多数書いておられます。私の気に入っているものでは以下の二作でしょうか。

「江戸お留守居役の日記」は、江戸留守居役の苦労がにじみ出ているところや、藩邸での生活などがよく描かれています。 「江戸城の宮廷政治」では、熊本藩の細川忠興、細川忠利親子の往復書簡を通じて、彼らがどのように生き残りをかけて努力を重ねたかが詳しく検証されています。

もちろん、本書の解説する歴史についても諸説あるので、他の参考書も併せて読むのが良いと思います。ただ、歴史を素人にも身近にしてくれたということにはなろうかと思います。

(2011年02月11)

追記

この記事を書いてからもう10年以上経ちました。震災のひと月前だったことを思うと、月日が経つのは早いものだと改めて思います。そしてその後、著者の山本氏も亡くなられました。まだ60代でいらっしゃったかと思いますが、訃報に驚いたことを思い出します。

この記事もまったく書評というにはおこがましい内容ですが(当時は「感想」にしていたが転載にあたって統一しています)。また、当時の公開名は「「江~姫たちの戦国」の時代を読む~『徳川将軍と天皇』」としていました。その年の大河にあやかった命名でした。(監修は小和田氏)。引っ越すほどの記事内容ではないのですが、自分の思い出もかねて転載いたしました。

江戸初期に幕藩体制がどのように確立されてゆくのかや、天皇制を排除するのではなくあくまでその権威を利用しつつ政治体制が強化されてゆく様は、本当に複雑で興味が尽きないテーマです。山本氏の学説については引き続き議論がありますし、もうかなり時間も経ちましたが、私が昔教科書で学んで来たこととはかなり違った視点を提供してくれました。

山本氏の著書は、学術的でありながら私のような素人にも分かり易い叙述が特徴でしたから、氏にはもっとたくさんの啓蒙書を世に送り出してほしかったと思います。(2025年7月追記)